2024年10月2日

　ベートーヴェンピアノソナタ全曲演奏会が、2024年8月7日～8日（2日間）上野の東京文化会館で催され、お陰様で無事終演しました✨ご来場くださった皆様、ありがとうございました🙇
　「本番はキメてきたねー‼️」四苦八苦していた練習から観ていた家族のコメントが、オリンピックのコメンテーターっぽくて笑いました😂それくらい今回仕上がりが直前になり、しんどい日々でしたが、当日はごった返す上野、東京文化会館の熱気、他のピアニストの熱演を楽しむ事が出来ました。自分が弾く田園的なテレーゼの前は熱情！ベートーヴェンの音楽って、本当に多様ですね(^^)

　さて、ベートーヴェンのピアノソナタといえば、ピアニストの新約聖書と称されるほど、重要な作品群です。200年以上弾き継がれているものだけに、どのように対峙するか、迷い、悩まないピアニストはいないのでは？今回の演奏会でも、32人それぞれに、実に多様なアプローチがみられました。ここでひとつ、「伝統か？　個性か？」という問いを提出してみたいと思います。

　私は演奏する時、「自分の個性を大切に演奏しよう」、はたまた「伝統を大切に演奏しよう」、このどちらの場合でも、なにかすっきりしない思いを抱えていました。「自分の個性を大切に演奏しよう」ということについて、 それって自分のエゴイズムなのではないか、と不安になる。「伝統を大切に演奏しよう」ということについて、 それって他者の代弁にすぎないのではないか(私がやる意味あるの?)、と不安になる。どうもモヤモヤするので、それぞれについて、考えてみました。

■自分の思うように弾くことは、エゴイズムなのか?

　エゴイズム は一般的に 「自己中心主義」 や 「利己主義」 として理解 されることが多く、 他人の利益よりも自分の利益を優先する態度、平たく言うと自分勝手な あり方を指し、多くの場合否定的なニュアンスを含みます。もちろん、自分勝手な人間は勘弁願いたいですが、もしも自分の中に他者が含まれていたとしたら、エゴイズムも単純に「自己中心的」とは言い切れない部分があるかもしれない、と思うのです。
　自分の中に他者が含まれている、とはこういう事です。個人はいろいろな人の影響のもとになりたっています。 子供が親の言ったことを受け売り することがあるのは、その一例です。そう考えると、完全に独立した存在としての「個人」 いうのは、宇宙に 1個だけ存在している生命体くらいしかありえないのではないでしょうか。
　こうした意味のことを、精神分析家のジャック・ラカンは「鏡像段階」として説明しています。 彼の理論によれば、自己認識は他者との関係性を通じて形成されるとされています。 ま たラカンに限らず、他の心理学的・哲学的・宗教的な視点からも、自己は他者との関係性の中で成り立つものであるとされています。つまり、自己は他者の存在を前提として成り立つものであり、完全な自己中心主義は理論的に矛盾します。

　よって結論！自分の思うように弾くのはエゴイズムなのではないか、と不安になることなかれ！あなたの中にはすでにたくさんの他者が含まれているのだから。これが一つ目の不安に対する、私なりの答えです。

■伝統を大切に弾くことは、他者の代弁にすぎないのか？

　さて、そうなってくると、伝統か個性かという問い自体が成り立たなくなってきます。自己は他者を内包しており、他者は自己の一部なのであれば、「伝統重視の演奏は他者の代弁であり、自分の想いを伝えていない。」と切り捨てるのも、NOでしょう。

　結局、伝統を重視した演奏だね、 個性的な演奏だね、というのは、その内容について、(その時点で) 世間から価値あるものとして既に評価されているものが多いか、その時点ではまだ評価が追い付いていないものが多いかという、その差だけのように思います。時間軸次第で、それは入れ替わり得る。ベートーヴェンが、かつて強烈な個性であったように。
　

　ということで、

まとめ
　結局ピアニストが自分に問いかけるべきは、伝統とか個性とかいう事ではなくて、真実性である！真剣さある！

その表現は心からのものか。
思ってもいないことを、やむなく、あるいは深く考えもせずに行っていないか。

　長らくお付き合いいただきありがとうございます。結局こういう考えに至り、ようやくもやもやがすっきりしました。また意見が変わるかもしれませんが、今日のところはここまで。

　お読み下さりありがとうございました！今日も素敵な音楽を奏でましょう♪